日本漢方の古方派を中心とした漢方薬・処方をご紹介します。

一般の方から専門家まで馴染めるよう、症例・処方薬味・適応疾患・使用目標・漢方の証・方意をご紹介。

安中散(アンチュウサン)-和剤局方-

症例

神経性胃炎/65歳・男性 -漢方処方・応用の実際より引用-

65歳の男性。足の痛風が漢方治療で治ってから、すっかり漢方ファンになった人である。ある時、食欲が減少し、食事を摂るとすぐに胃部が膨満して苦しくなり、時々胸焼けしたり軽く上腹部が痛むようになった。ある病院で検査したところ、胃酸が減少していると言われ、癌になるのではないかと心配された。

患者は中肉中背で、腹部の肉付きは良く、腹診による緊張も良い。心下部には軽い抵抗と圧痛を認めた。

最初、生姜瀉心湯が良いかと思ったが、冷え性で冬になると眠れず、朝方非常に早く目が覚めるというので内部(胃)に寒があると考えられ、安中散を投薬した。

食養生として、毎朝、梅干を一個づつ食べるように勧めた。すると、約2ヵ月後には胃の具合も良く、便通も良くなりすっかり元気になられた。

処方薬味

生薬-桂皮桂皮 生薬-延胡索延胡索 生薬-牡蠣牡蠣
生薬-茴香茴香 生薬-縮砂縮砂 生薬-甘草甘草
生薬-良姜良姜    

適応疾患

胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃酸過多症、胃下垂症、幽門狭窄、胃の腫瘍、胃動脈硬化症、貧血、ヒステリー、神経症(神経性胃腸炎)、ニコチン中毒、胃アトニー症、胃酸減少症、慢性胃炎、悪阻、胃腸カタル(主に慢性症)

使用目標

体力が低下している虚弱体質の人が、胃が痛んだり、吐いたり、胸焼けのする時に用います。

食物の消化が悪く、いつまでも胃に停滞し、胃や上腹部が張り、悪心、嘔吐、四肢倦怠等が起こり、体重が減少する場合に用います。

臍傍又は臍上に動悸があり、胃内停水があり神経症がある方に用います。

人体を上中下に3分すると、中は胸膈の下部から上腹部に相当し、安中散は胃・肝臓・膵臓・胆嚢などの臓器のある部分を指します。「中を安んずる」ことを目的とする安中散は胃腸のみにこだわらず、胆石痛や膵炎に用いることもあります。

ただ、温性の処方ですから炎症性の疾病には不適です。テレビで見かける宴会シーンの宣伝は目的を間違わせる心配があります。

安中散の目的は温中散寒、服用して却って痛くなる場合は、半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)か柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)等が考えられます。初めから柴胡桂枝湯と併用するのもよいです。

選薬条件

  • 第一の条件:慢性に経過した胃の疾患で急性炎症の熱性の痛みでは無い。
  • 第二の条件:胃酸過多症を起こしている事が多い。
  • 第三の条件:虚寒の証である。

以上が古典から考えられる安中散の選薬条件だと考えられます。

漢方の証・方意

  • 病位・虚実;太陰病 虚証
  • 十二臓腑配当;脾・胃
  • 方意;寒証による心下部痛、腹痛などの疼痛。脾胃の虚証・脾胃の気滞による食欲不振、心下痞、呑酸に対する方剤です。
  • 備考;安中散証の方が甘いものを摂ると、症状を悪化させるので厳禁です。

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生薬-粟

処方薬味

生薬-当帰当帰 生薬-芍薬芍薬 生薬-川芎川芎
生薬-人参人参 生薬-朮白朮 中国39-生薬-茯苓茯苓
生薬-桂皮桂皮 生薬-粟  

適応疾患

急性胃腸炎、慢性胃腸炎、潰瘍性大腸炎、胃腸型感冒、慢性大腸炎、直腸潰瘍、冬季下血、冬季脱肛、下痢

使用目標

胃腸が虚弱な人が、腹を冷やしたり、いわゆる胃腸型感冒などで下痢をする場合に用います。この時、腹鳴があり、腹が痛むこともあり痛まないこともあります。

大便は泡の混じった水様便で、米のとぎ汁のようなこともあり、血液を混じっていることもあって、渋り腹であることが多いです。

漢方の証・方意

  • 病位・虚実;太陰病 虚証から虚実中間
  • 十二臓腑配当;胃
  • 方意;脾胃の虚証による慢性下痢、胃腸虚弱。血虚による顏色不良、下血
  • 備考;胃風湯証の下痢は頻回ではなく、日に2、3回程度です。

胃苓湯(イレイトウ)-をご紹介

生薬-朮

処方薬味

生薬-朮蒼朮 生薬-厚朴厚朴 生薬-陳皮陳皮
生薬-猪苓猪苓 生薬-澤瀉澤瀉 生薬-十薬白朮
生薬-芍薬芍薬 中国39-生薬-茯苓茯苓 生薬-桂皮桂皮
生薬-大棗大棗 生薬-生姜生姜 生薬-甘草甘草

適応疾患

食あたり、暑気あたり、冷え腹、急性胃腸炎、熱射病、過敏性大腸症候群、胃腸神経症、胃腸型感冒

使用目標

平素の水毒体質で、胃内停水が合ったり水太りの人に多く用いますが、普通の人にも起こる食あたり、暑気あたりによる下痢に用います。食物の消化が悪くてそのまま水溶性の下利をし、腹が張り、小便の出が悪く、腹が痛むが軽いものに用います。腹痛はないものもあります。

漢方の証・方意

  • 病位・虚実;少陽病 中間
  • 十二臓腑配当;胃
  • 方意;上焦の気滞・上焦の水毒+水証による心下痞、悪心、嘔吐、腹痛、口渇、尿不利、下痢に対する方剤です。
  • 備考;平胃散(ヘイイサン)(上焦の気滞・上焦の水毒)と五苓散(ゴレイサン)(水毒)の合わさったものです。

茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)-傷寒論・金匱要略-をご紹介

生薬-茵蔯蒿

症例

黄疸/51歳・男性 -漢方処方・応用の実際より引用-

患者は肥満型の中背の頑丈そうな51歳の男性。土木建築の請負業で平素は丈夫であるが、約半年ほど前から身体が黄色くなり、体中がひどくだるく胸も腹も一杯に張ってなんともいえず苦しく悪心嘔吐があって、食事のほとんどがのどを通らず水ものばかり摂っている。無理に食事をすると頭が重くなり嘔気がおこってみな吐いてしまう。また便秘が酷く下剤を飲んでも大便が気持ちよく出ない。

どこかの漢方薬店で購入した茵蔯蒿湯と大柴胡湯の合方を飲んでいたが良くならず、肝炎とは考えられなかった為「5日分薬を飲んで少しも良くならなければ大学病院を紹介しますからそのときは言ってください」と言い渡して投薬することにした。

投薬した薬方は茵蔯蒿湯を単独で用い、どうなることかと内心びくびくしていたが、5日目には患家の男の子がケロッとした顏で「具合がいいから薬を貰って来いと言われてきた」といって来院した。直接、本人に様子を聞いてみようと電話をしてみると身体の黄色みは全く取れ、ただ眼球結膜に僅かな黄色みを残していた。と報告された。

処方薬味

生薬-茵蔯蒿茵陳蒿 生薬-山梔子山梔子 生薬-大黄大黄

適応疾患

慢性肝炎、急性肝炎、蕁麻疹、黄疸、胆のう炎、膀胱炎、腎盂炎、腎炎、ネフローゼ症候群

使用目標

体力中程度以上の人の黄疸に用いますが、黄疸がなくても用いられます。

上腹部がなんとなく張って苦しく、心下部より胸部にかけて塞がるような何とも言えぬ不快な苦しさがあり、食物が摂れず、大便が秘結し、尿量が減少している方に用います。この時、黄疸があれば少し排泄される大便は白色で石鹸のようになり、小便の量は少なくて色が濃い黄褐色や黄赤色になります。

また、口渇、頭汗のあることもあり、胸がムカムカして吐き気を生じ、食物を摂ると頭痛がしたり眩暈がしたりして嘔吐が起こり、食べ物が通らないことがあります。この際の腹証は、しばしば肝臓が肥大し、心下から右季肋下にかけて板のように硬い抵抗を生じます。脈は多く沈実あるいは遅、舌には黄苔があることも少なくありません。

漢方の証・方意

  • 病位・虚実;少陽病から陽明病、実証
  • 方意;上焦の熱証による口渇、黄疸、発熱。裏の実証による便秘、腹部膨満感。
  • 備考;茵陳蒿湯は黄疸の薬として繁用します。

茵蔯五苓散(インチンゴレイサン)-金匱要略-をご紹介

生薬-澤瀉

症例

黄疸/27~28歳・男性 -漢方処方・応用の実際より引用-

患者は獄舎にいる間に少し熱があり、その後医者を3人替えてみたが病状は日に日に重くなって危篤に及んだらしく、状態をみてみたところ全身くまなく黄色になり、身体も手足も厥冷して熱のあるところもない。

脈は洪で少し革を帯びとくと按じて一向に力がない。小便は少なく大便は秘結している。前に診た医者は大柴胡湯 加石膏を3日ばかり用いたが、便通がつかず食物も飲み物も冷たいものでないと喉を通らず、また冷たいものや冷水が咽を下ってもしばらくすると吐いてしまう。

そこで絶食が10日ばかり続き、全身疲労衰弱して起居も出来ず、よって本人も覚悟して死を待つばかりで、これを推察するに牢の中にいる間に湿気が多いところへ外邪をうけて黄疸を発したと考え、五苓散の水逆のつもりでこれに茵蔯、人参を加えて用いた。

翌日、全身が温まり尿量が増加し、またその翌日に大便が快通し、それより口渇も止んで食物も咽を通るようになりおよそ30日ばかりでもとの通り元気になった。

処方薬味

生薬-澤瀉澤瀉 生薬-朮白朮 生薬-猪苓猪苓
生薬-茵蔯蒿茵陳蒿 中国39-生薬-茯苓茯苓 生薬-桂皮桂皮

適応疾患

腎炎、ネフローゼ症候群、 腹水、水証を主とした皮膚疾患、新生児黄疸、急性肝炎、肝硬変、二日酔い、慢性肝炎 、蕁麻疹

使用目標

五苓散証で黄疸を併発した方で比較的虚証で、肝機能障害或いはアレルギー体質があり、胸脇苦満を呈しない方に用います。

漢方の証・方意

  • 病位・虚実;少陽病、虚実中間
  • 方意;水証による口渇、尿不利、浮腫。上焦の熱証による尿血濁、黄疸、手足煩熱。時に気の上焦・表の虚証・表の寒証。

参考文献・出典

  1. 漢方診療医典 大塚敬節・矢数道明・清水藤太郎 著
  2. 漢方処方 応用の実際 山田光胤 著
  3. 漢方方意ノート 千葉古方漢方研究会 著
  4. 漢方治療百話第1~3集 矢数道明 著
  5. 腹證奇覧 稲葉克文礼 和久田寅叔虎 著
  6. 漢方処方応用のコツ 山田光胤 著
  7. 薬局製剤 漢方194方の使い方 埴岡博・滝野行亮 共著
  8. 勿誤薬室方函口訣 長谷川弥人 著
  9. 漢方診療30年 大塚敬節 著
  10. 皇漢医学 湯本求真 著
  11. 黙堂柴田良治処方集 柴田良治 著
  12. 類聚方広義 吉益東洞 著